偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
Chapter6

♧契約♧


ゴミだめのような部屋の中で、婚姻届に必要事項を記入した。

「おい、今、ちゃんとした印鑑持ってるか?シャチハタは、なぜかあかんらしいぞ」

智史(さとふみ)が婚姻届の捺印する箇所を、トントンと人差し指のひらでノックする。

「うん、持ってる」

(やや)はティアドロップの形をした黄色いボディバッグから、銀行などで使っている印鑑を出した。
今日は荷物が多すぎたから、背中の曲線に合わせたデザインで定評のあるヘルシーバックバッグである。

「それにしても、役所に出さへんのに、印鑑まで押す意味あるん?」

稍は印鑑をつきながら、訊いた。

証券会社に勤務しているとき、各種書類に押印された印鑑の照合をしていた「プロ」なので、実は陰影にもうるさい。もちろん失敗などすることなく、くっきりと押すことができる。

「……おまえ、おれのオカン、覚えてるやろ?」

眉間にシワを寄せて、智史が(うめ)いた。

「これを見せて、稍と結婚するんは本当(ほんま)やって信じ込ませるんや」

デパートの外商部に勤務する智史の母親は、今で言うところの「バリキャリ」の草分けだ。
今では部長職としてたくさんの部下を従える身となったという彼女は、ますます心身ともにパワフルになったに違いない。

そんな彼女に少しでも不自然な素振りを見せたりなんかしたら、たちまち「偽装結婚」だということを暴かれてしまいそうだ。


……それに、あたしの顔なんて、一番見たくないやろし。

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