偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……よし、書けた。稍、おれのも印鑑ついてくれ」

智史が印鑑を稍に渡す。
稍は端正な筆跡で書かれた「青山 智史」の隣に「青山」の印鑑を押した。

「ふうん、おまえ『八木』やのうて『稍』の印鑑なんや」

稍が端正な筆跡で「八木 稍」と書いた隣に押した印鑑を見て、智史がつぶやいた。

二人の筆跡が似ているのは、同じ書道教室に通ったからである。

「『麻生』から『八木』に変わったときに、そうしてん……また、名字が変わったとき、めんどくさいかな、って思うて」

……結局、変わらへんかったけどさ。

「アホな男に引っかかりやがって」

稍の心を読んだかのように、智史がそう言って顔を(しか)めた。

先刻(さっき)もそんなことを言われたな、と思った稍は、今度こそ「大きなお世話やっ!」と言って睨んでやろうと、伏せていた目を上げた。


……その瞬間、二人の目が合った。

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