偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「安心して……わたし十月からステーショナリーネットを出るから」
「ええぇっ⁉︎ ステーショナリーネットを辞めるんですかっ⁉︎」
稍の声が大きくなって、あわてて口を押さえる。ここは、お洒落な「オトナの隠れ家」だった。
「会社は辞めないわよ。わたし、以前からロハスライフの方へ行きたかったの。文具よりも生活用品の製品デザインがしたくて」
ロハスライフは(株)ステーショナリーネットの生活用品部門のネット通販である。
確かに麻琴の洗練されたカッコいいデザインは、制約の多い文具よりも生活用品の方が活かされるだろう。
「今度『ロハス』にも、ようやくプライベートブランド事業部が立ち上がることになったの。
マーチャンダイジング課ができるのよ。
それで、この前、魚住課長に次の希望先を聞かれたときに、そのチームリーダーとして名前が挙がってる、って言われて、即『お願いします』って言っちゃったのよ」
麻琴にまたいつもの華やかな笑顔が戻ってきた。
「それにフロアは違っても、社食は同じよ。また一緒に食べましょうよ」
ステーショナリーネットの社員食堂は、美味しくてヘルシーなうえに、イタリアンレストランのようなオシャレな内装なのだ。
N◯Kの「サラメシ」で紹介されたこともある。
「この歳になると、周りがみんな若くてね。それに、今度はチームリーダーになるかもしれないでしょ?ますます敬遠されるわ」
稍もそれは証券会社時代に経験した。
一応「主任」だったからだ。
「……ねぇ、わたしもあなたのこと、魚住課長や石井くんのように『ややちゃん』って呼んでいい?」
少女のようにはにかんで、麻琴は尋ねた。
「もちろんっ! あたしも『麻琴ちゃん』って呼びますっ!」
稍は食い気味に答えた。
なんだか、往年のマンガのキャラみたくなりそうだが。
「あなたの方が歳上なのにね。だから、もう敬語は使わないで」
「うん、わかった」
稍はしっかりと肯いた。