偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「あれ、どうしたの?」
浮かない顔でMD課に戻ってきた智史に、石井が尋ねる。
「……稍が捕まらない」
ぼそっ、と智史がつぶやいた声を逃さず、
「えっ、どういうこと?ややちゃん、おうちにいないの?」
麻琴が聞き返す。稍とはすっかり「友達」だ。
「今夜、稍が前の会社の同僚の女の子と食事に行くって言ってたから、スマホを会社に忘れたことを伝えてもらおうと、その彼女と連絡を取ったんだが、彼女は今夜じゃなくて明日のランチで会う約束だから、今は稍とは会ってないと言うんだ」
智史が顔を歪める。「青山」が「女」のことでこんな顔をしているのを見るのは初めてだった。
「その『同僚』ってさ、もしかしてアクアシティの海賊の店に飛び込んできた、ややちゃんの『元婚約者』じゃないの?
……青山さん、新婚早々、浮気されてるとか?」
石井がニヤニヤしながら言う。
すると、視線だけで人の息の根を止めるかのような凄まじさで、智史から睨まれた。
「もう、石井くんったら、いくらそんな顔の青山さんがレアだからって、おもしろがっちゃダメよ。それに、ややちゃんがそんなことするわけないでしょ?」
麻琴は呆れた声で石井を制す。
「……ところで、山口は?」
智史が会社に戻ってきてから、まだ一度も見ていなかった。
「夕方に取引先から呼び出されて、八時くらいだったかなぁ、『直帰します』って連絡があったよ」
その連絡を受けた石井が答えた。