偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「それから……『本命女』っていう意味がようわからへんけど……おれはおまえに愛想(あいそ)尽かされたないし、おまえ以外の女に興味はないから、絶対に浮気なんかせぇへんぞ。渡辺もちゃんと切ったやろ?」

智史は突っ伏した稍を抱え起こした。

「……稍?」

なにも言わないなと思ったら、稍は、はぁっ、はぁっ、と荒い息を繰り返していた。

……まずい。パニック症状がぶり返したな。

智史は医師の松波を呼びに行こうかと思った。
今ならまだ、このホテルのバーにいるかもしれない。

だが、松波は先刻(さっき)、薬の出番はない、と言っていたではないか。
それどころか、智史のことを『特効薬が駆けつけて来た』とも言っていた。

智史はしっかりと稍を抱え直した。
ここは「夫」としての力の見せ所かもしれない。

「……稍、おれがおるからな。大丈夫や。すぐにしんどいのも治るぞ」

くるしそうな息で喘ぐ稍をあやすように、その髪をやさしく撫でながら、智史は抱きしめ続けた。

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