偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「やっぱし、麻生ちゃん?
……いやぁ、こんなとこで会うやなんて」
その人は大きな瞳をさらに見開いていた。
「お…岡嶋先輩っ⁉︎」
稍は素っ頓狂な声で叫んでいた。
高校および大学のときの先輩がそこにいた。
地元では名の知れた私立の女子校だが、東京で同窓生に会うのはめずらしい。
関西人はオープンマインドのようでいて、実は意外と保守的で内弁慶だから、地元で自己完結する人が多いのだ。
稍は、前職のあさひ証券の入社試験でエントリーシートにマークするときに、初めは「大阪エリア限定の総合職」にしていた。
ところが、いざ送信する際になって、突然「東京エリア限定の総合職」へと変えたのだ。
大阪エリアの方が「学閥」に守られて安心できるというのは周知の事実だった。
なのに稍は、同窓生のほとんどいない東京エリアでは入社試験で落とされるかもしれないというリスクすら顧みず、そうしたのだった。
そのとき、初めて「あの家」を出たかったのだ、ということに気づいた。
……母親代わりになって面倒をみてきた、たった一人の妹を残してまでも。