偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「……ひっでぇなぁ。課長、妻子持ちじゃん。
なのに、なにガッついてんだよぉ」
山口は舌打ちをした。
「だって、あの人、課長の奥さまだもの」
不意に声がして振り向くと、麻琴が立っていた。
……ええぇっ、ウソだろっ⁉︎ 人妻かよっ⁉︎
いとあはれな山口は、速攻で失恋である。
幸いなことにヤケ酒をしたければ、このあと社長の謝辞と来賓の挨拶さえ済めば、死ぬほど呑める。
……でも、ということは。
「じゃあ麻琴さん、あの人が、再会した当時人妻だった同級生で、課長が自分と同棲するために別居させたあと、夫に直談判して離婚に同意させた、って人っすか?」
麻琴が優雅に髪を払って、ふふん、と笑う。
「そうよ」
ここにもいいオンナがいた。
いつもはふんわりとバレッタで一つに束ねられたグレージュの髪が、今日はゆるやかに巻かれてハーフアップにされている。
カシュクールのトップに、ボトムは前が膝上で後ろがミモレ丈のフィッシュテールになった、ワインレッドのドレスを見事に着こなしていた。
麻琴の減り張りの効いたボディラインを饒舌に語る、煽情的なデザインだ。
「だってわたし、同じ大阪支社にいたから、魚住課長のウェディングパーティに出席したもの。
正真正銘、あの人があのときの花嫁さんよ」