偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「……だよなぁ。あんなカッコいい人、滅多にいやしないもんなー。ダンナに直談判してでも、ほしいっすよねー」
山口がため息とともに吐く。
「あなた、どっち見てんの?よく見なさいよ。課長が先刻から話してるのはサーモンピンクの方でしょ?そっちが奥さまよ」
麻琴が呆れたように言う。
へっ⁉︎と思って、山口がよく目を凝らして見ると、「ミントグリーン」の彼女が課長に三〇度の綺麗なお辞儀をして、課長もまた同じくらい綺麗な三〇度のお辞儀を返していた。
どう見ても初対面の挨拶だった。
「ええぇっ⁉︎ あの、バレリーナみたいな人がですかっ⁉︎ あの人、黙ってたら処女にも見えなくないあどけなさなのに、もうバツイチの子持ちですかっ⁉︎」
山口はムンクのように叫んだ。
今流行りの細身の黒いスーツ姿が形無しだ。
これでも社内一のイケメンとして、女子社員から熱い眼差しを一身に受けているのに。
「そんなを言い方したら、まるで課長と離婚したシングルマザーみたいじゃないか」
二人の背後に、ダークグレー系でグレンチェック柄のスリーピース姿の男が、腕を組んで立っていた。
「あら、青山さん」
麻琴が大輪の花のような笑顔で振り向いた。
「再婚した課長とは子にも恵まれて、だれがどう見たって家庭円満だ。今度は離婚はない」
青山は五センチほど背の低い山口を、見下ろしながら断言した。
山口は苦虫を噛み潰したような顔をして、上目遣いで青山を見た。
……わかってるよ、そんなこと。
あぁ、めんどくさい人だ。