偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

葛城社長の、妻とは反対側の隣にはMD課・青山チームの石井がいた。

この場に立つというのは、行く行くは社長の右腕となる「幹部候補生」ということである。


社長の従弟(いとこ)である彼は、本来は親会社の萬年堂に入社するはずだった。
彼の母親が会長の妹で、父親は萬年堂の専務だからだ。

両親は萬年堂の社長になった、会長の長男を支えることを望んでいた。
だが、もともと次男の謙二の方と気が合って、実の兄弟よりも慕っていた。

だから、石井はその従兄(いとこ)が立ち上げたステーショナリーネットに、学生の頃から出入りしていた。
安定はしているかもしれないが、十年一日のごとく古き体制の老舗文具メーカーより、時流に乗ってどこまでも挑戦して行ける社風のネットビジネスの方に、断然魅力を感じた。


石井はわが国を代表する老舗ホテルの、芸能人なんかの派手な結婚式でテレビ中継が入ったりする、美しい鳥の名がついた一番大きくて広い会場を見渡した。

思わず、口角が上がった。

……ここで「創立記念パーティー」が開けるほどの会社になったんだ。

両親の説得を振り切って、ステーショナリーネットに入社したことは「正解」だった、としみじみ感じた。

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