輪廻ノ空-新選組異聞-
「伊木、武田流にはなるなよ」

武田流、というのは、ホモ…衆道の武田観柳斉(たけだかんりゅうさい)さんが大っぴらに凄いので、土方さんが衆道の事を嫌みを込めて命名したんだけど…。

「ははっ、己より背ぇの高い嫁はんはいりまへんわぁ」

ドカッ

「うっ」

わたしは再び隣の伊木さんに肘鉄を食らわした。

「行きますよっ」

わたしは近藤さんと土方さんに一礼すると背を向けた。そして脇腹を抑えて苦しむ伊木さんを置いてサッサと歩き出した。


一番隊は朝一番の巡察で出掛けていて全員留守。
だから、沖田さんとは巡察出発前の、朝の支度の時に挨拶を済ませた。

昨日の今日だし…変な情熱が籠るかなぁあとも思ったのだけど…寧ろ逆で。気持ちは凄く落ち着いていて。

思い残す事がない…って言ったら…ちょっと違うのだけど、それにも似たスッキリとした気持ち。やっぱり…気持ちをきちんと話して、そして身も心もひとつになったのは良かったのだと実感した。

「無事の帰りを待っています」

「はい。待っていてください。沖田さんもお体などお気を付けて」

「わかりました」

笑顔を見交わして。

自然と唇と唇を重ねて。

チュという音も立たないような重ねるだけの接吻。

でも、くすぐったいような心地よい幸せが広がって。もう一度笑顔を見交わす。

そしてわたしは沖田さんを見送った。
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