輪廻ノ空-新選組異聞-
「近藤先生は真面目ですからね、悩まれるかも知れませんね」

と、沖田さんが呟くように続けた。

「理性と理想では奥さんや娘さんが一番大切ですが、京での現実をそれで押し込めると、参ってしまうでしょうから」

「だな」

永倉さんも相槌を深々と打った。

「江戸での道中、苛めてやらねぇとなぁ」

いじめる!?

「ど、どういう事でしょうか?」

聞いたわたしに、永倉さんは面白そうに、口の両端を大きく上げてニヤリと笑った。

「色々考えさせてやんのよ。ご家族の事も、太夫のことも真面目に大好きなんだろうけどよ、だからこそ、俺が…」

道中「奥さん達に会えるの楽しみだな」、「休息所で太夫とくつろぐの楽しみだろ?」ってからかってやるのだと、永倉さんは続けた。

「ちょっと、永倉さん。急ぎの旅でそんな余裕ないですよ!やめてあげてください」

沖田さんが慌てたように言って。

「でも…まぁ…」

と、途端に語調がゆっくりになって。

「江戸への出発前に、ぎくしゃくしたまま出かけることにならなくてよかったです。安心しました」

と、直訴の事件を思い出して、本当にほっとしたような笑みを浮かべたんだ。わたしも隣で何度も頷いちゃった。

とにかく、気を付けて、そして折角の江戸行き、遊びで戻る訳じゃないけれど、池田屋事件での大活躍もあっての凱旋にもなるんだから、気持ちよく出かけてほしい。





…って、めちゃめちゃ沢山回想しちゃったけど…。

「きっと仲良く江戸に着いてますって。藤堂さんが先に行ってますし、きっとお迎えもあって、江戸での再会の雨あられで大盛り上がりですよ!」

「そうですね」

永倉さん達と仲良くやってるかなっていう、わたしの呟きに明るく答えてくれた沖田さんに、わたしも笑みを返した。


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