輪廻ノ空-新選組異聞-
お酒と肴が運ばれてきた。

でも、相変わらずお殿様は遠いんだけど、でも、ちょっとお酒を体に入れると、ホッとリラックスしたような感じになって。

「緊張はほどけそうか?」

と、お殿様に問われて、ようやくちゃんとお顔を見ながら「はい」と普段通りに近い感じで返事が出来た。


「土方さん、このお魚、おいしいですね」

たしか、直接お殿様に話しかけてはいけなかったはず、と思いだしたので、土方さんに言うみたいにして、ちょっと大きめの声で感想を言ってみた。

「うむ、美味だな」

と、土方さんも同意してくれて。

そうしたら、お殿様の声。

「それは会津の郷土料理で山椒ニシンという。ニシンの山椒漬けだ」

「酒が進みます」

と、土方さんが答えて。

「私はごはんが欲しくなります」

なんて、考えもなしに言ったら…

またもやお殿様は家臣に命じてあつあつのごはんを持ってこさせてくれた。

うう…ごめんなさい。ありがとうございます。


「して、大坂の港などはいかがなものか?」

「藩そのものの動きは落ち着いておりますので、港も一時を思えば静かなのですが、逆にこっそりと入京をたくらんで、大坂で準備をしているような、そのような浪士たちの噂は増えました」

ようやくリラックスしながらわたしは見聞したこと、自分が感じたことを伝えた。

「大坂の住人は、京都での戦火におびえてますね。それだけは避けたいっていうのと、あとは新選組に取り締まられるよりも、浪士たちにおどかされる方が怖いのか、商家などで、長州に肩入れしている所が多いです。そういったあたりでは、会津や新選組は評判が悪いのは勿論、ちょっとバカにされているような気がします」

と、正直に伝えた。


「馬鹿に?」


はい、と私はお殿様の言葉にうなずく。


「融通がきかない。まじめ過ぎて、動きが鈍い…」

というのが会津への市民の評価で。

「わが隊、新選組に関しては、アホばっかりや…と言ってました」

あ、ちょっと大坂の普通の人に衣装を変えて、茶店等でお店の人とか、他のお客さまと雑談をしていて得た情報なんですけれどね、と付け足す。

「どっちが勝ってもええけど、とりあえず、日々の生活が困窮するのは困る。勝ちそうな方に味方する。会津や将軍さまは結局何もしてくれないって口々に言ってますね」

「そうなのか…」

と、お殿様はきれいな顔を複雑そうにゆがめ、眉をひそめた。
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