BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「いえ! 覚えてます! お店の名前、ソッジョルノって読むんですね。私わからなくって……」

 月穂が慌てて言うと、彼女はさらに柔らかく目を細めた。

「あはは。私も初めわかりませんでしたから。イタリア語らしくて、寛ぎとかそういう意味合いがあるってうちの店長が言ってました」
「寛ぎ……」

 思わず単語を繰り返す。あのカフェにあまりにぴったりな表現で感心した。

 暖かな木の温もり。どこか昔の懐かしさを感じさせる家具に、大きな格子窓から見える景色は、ゆったりとした時間を感じられた。

 祥真もそういう雰囲気が気に入っていると言っていた。
 寛げるカフェにしっくりくる名前だ。

「ちなみに私は今、ちょっと足りないものを買いに」

 月穂が小さな感動を覚えていると、彼女は赤い舌をぺろっと出して、レジ袋を上げて強調した。
 しかし、すぐに悪戯っぽく笑っていた明るい表情を崩し、眉を顰める。

「怪我されたんですね。大丈夫ですか? あ、同じ方向みたいですし、私、店まで荷物持ちますよ」

 松葉づえとギプスという出で立ちが仰々しく思えたのだろう。
 ちょっと足の骨にヒビが入っただけなのに……と、月穂は狼狽える。

「ええっ! いえ! お気持ちだけで」
「遠慮しないでください」
「ありがとうございます。でも、本当にそのお心遣いだけで」

 女性は親切心で手を差し出していたが、はた、となにかを思った様子で手を引っ込めた。

「あ……大切なものでした? それなら他人に預けるのは不安ですよね」
「えっ」
「違いました? 大事そうに両手で抱えたからてっきり」
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