BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
さっき、電話で一度同じように呼ばれた。
 もちろん、そのときも心臓が跳ねたのだが、今はまったく比べものにならない。

 目前にある彼の真剣な双眸。手のひらの体温。直に自分の名前呼ぶ、甘い声。

 全部、月穂の理性を狂わせる。
 月穂には、もう祥真しか見えない。

「君は名前にもあるように、月のような柔らかな光で蔭った心を照らしてくれる」

 祥真のすらりとした指先が頬を撫で、親指が下唇に止まる。たったそれだけの動きで、月穂の身体は灼熱のごとく熱くなる。

 彼はおもむろに顔を近づけてくるので思わず仰け反り、ソファの背もたれに身体を預けた。
 祥真が片膝をソファに乗せ、月穂を広げた両手で閉じ込める。

 背もたれはふわっとして安心感を与えてくれそうなものだったが、そんなことを感じる間もない。

 祥真は月穂の鼻先に触れるところで、薄く口を割り開いた。

「夕貴にも誰にも渡したくない」

 熱視線を向けて言われ、瞬きも忘れる。

 祥真の顔が傾き、長い睫毛が下向きになったのを見て、咄嗟に彼の袖を掴む。
 嫌という気持ちはないが、誰かに真剣に想われることが初めてで狼狽する。

「は、隼さ……」
「やっぱり、気持ちを落ち着けるためにお守りが必要?」

 祥真が片手をスラックスのポケットに入れると、月穂があげたタブレットが出てくる。

「これを君は精神安定剤だと言っていた。だけど俺には必要ないから」

 なんとなく流れで渡したものだったけれど、面と向かっていらないと言われたらショックを受ける。
 祥真にとってはありがた迷惑なことだったのだと思い知らされ、恥ずかしさと悲しみで溢れた。

 月穂は力が抜けたように祥真から手を離し、彼が持つタブレットに指を伸ばした。
 袋に触れる直前、ガシッと手首を掴まれる。

 祥真の手から零れ落ちたタブレットが、ソファの上に転がった。
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