BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
(企業に打診されているっていうことは……もしも話を受けることになったら、私がひとりで院内を任されるってこと? それはかなり心配だな)

 もしも花田がEAPで行くとなれば、院内の臨床心理士は自分だけになってしまう。月穂はこれまでスクールカウンセラーとしてしか従事したことがない。
 月穂は、ひとりで業務をこなせるのだろうか、と一抹の不安を感じ、膝の上の手に力を込める。

「そう。最近は内部にカウンセラーを置いておくよりも、外部委託するほうが増えてきているから」

 月穂と違い、花田は変わらず落ち着いた様子だった。月穂は動揺を隠せず、急くように尋ねた。

「そうなんですね。そうなると、院内クライエントの引継ぎが……大変ですよね?」

 花田が行ってしまったあとを考えると、まだ不慣れな自分がきちんと業務をこなせるのかが心配でたまらない。すると、花田は微笑んだ。

「ううん。それは平気よ。私はEAPを大和さんにお願いしたいと思っているから」
「……え?」

 月穂は時間が止まったように動けなくなった。小さく口をぽかんと開ける。

「嫌かしら?」
「えっ。あの、嫌……っていうか。私でいいんですか……?」

 しどろもどろとする月穂に、花田は優しく目を細めた。

「病院(ここ)と違って企業だから、スクールカウンセラーに近いかなと思うのよね。その辺なら大和さん経験あるでしょう? それと、いい経験になると思うの。今の大和さんならなんでも吸収しそうだし」

 勤務して間もない頃、月穂は花田に、色々な可能性を試してみたい、という思いを話したことがあった。
 そして、この一か月の仕事に対する真摯な月穂の姿を見て、花田は判断した。
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