BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
 そうこう考えごとをしているうちに、目的のリトルトーキョーに到着する。
 さっき彼女に聞いた通り、日本の雰囲気が感じられてどこかホッとした。その安堵からか、お腹が鳴る。

(そういえば、今朝からなにも食べてなかった)

 ひとまず腹ごしらえ……と、ラーメンを食べることにした。
 食事を終えると、日本ではおなじみのパン屋のメーカーや、スーパーなどを観光して回った。日本でもよく見る食料品などが並んでいて、なんだか故郷にいるような感覚に頬を緩ませる。

 ブラブラと歩き続け、ふと腕時計を見ると、もう午後六時を過ぎていた。

 そろそろホテルへ戻らなければと思ったものの、この先にはなにがあるのかという好奇心に負け、つい足を延ばしてしまう。

 辺りをきょろきょろとしながら歩いていると、気づけば穏やかな街の雰囲気がなくなっていた。
 数十メートル先を見れば道路はゴミで散らかっていて、心なしか異臭もしてきた気がする。

 月穂は警鐘を鳴らした。

(これ……絶対マズイ。たぶんここから先は治安の悪いエリアなんだ)

 一刻も早く、来た道を引き返さなければとわかっている。
 しかし、いざとなると足が竦んで思うように動かない。

 そこへ、タイミングの悪いことに一本奥の道路脇から、怪しげな外国人が現れた。その男はどこか目つきが虚ろで、目が合った瞬間、戦慄が走った。

「……いや」

 震える唇で抵抗の言葉を漏らす。怖いのに、近づいてくる男から目が離せない。

 泣きそうになって身を強張らせていると、今度は背後から思い切り腕を掴まれた。

「ひっ!」
「やっぱり君か!」

 月穂が恐怖におののいた表情で見上げると、ホテルで会った彼だった。

 彼は眉を寄せ、険しい顔で月穂を見下ろしている。

 月穂は相手が変質者や犯罪者ではなく、昼間助けてくれた彼だということに、一瞬胸を撫で下ろす。けれど、ホテルでは余裕のあった彼の顔つきが、ひと目でわかるほど緊迫しているのを見て、安心するにはまだ早いのだと悟った。

 彼は低い声で囁く。
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