BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
 あれから数時間経ち、昼になった頃、月穂はとあるアパートの一室から外に出た。続いて出てきたのは、四十代くらいの日本人女性。
 彼女はアメリカ在住の心理カウンセラーだ。

 今回、月穂が渡米してきた理由は、インターネットで知った彼女と会うため。

 月穂は、つい数週間前までスクールカウンセラーとして二年間働いていた。だが、視野を広げ、いろいろと挑戦したいという気持ちも大きくなって退職した。

 そして、時間ができたこの機会に、かねてよりインターネットで追っていた彼女に会いに、ロサンゼルスまで訪ねに来たというわけだ。

「ひとりで平気?」

 心配するカウンセラーの女性に、月穂は笑顔を見せる。

「はい。タクシーを呼んでくださって助かりました。このあとは、オススメのリトルトーキョーへ行ってみます」
「そう。くれぐれも気をつけて。楽しんでね」

 まるで初めて会ったとは思えないような安心感。それは、彼女の人柄なのか職業柄なのか。

 月穂はそんなことを考え、両方があてはまるのだろうと思った。

「今回はお話を聞かせてくださり、とても勉強になりました。ありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ、はるばる日本からありがとう。Good luck!」

 女性に差し伸べられた手をしっかりと握り、月穂は温かな気持ちで彼女と別れた。

 タクシーの中で、今しがた握手した手のひらと見つめる。

「在米日本人カウンセラー、か」

 ぽつりとつぶやき、車窓に目を向けた。

 カウンセリングが身近なアメリカでは、日本と比べありふれた仕事かもしれない。そうかといって、英語でコミュニケーションが取れることが大前提だ。とても簡単な気持ちでチャレンジできるものではない。

 月穂は感嘆の息を漏らし、広げていた手をきゅっと握る。

 人と比べる必要はない。自分には自分の居場所が必ずある。

 月穂は昔から自分に言い聞かせるように、ときどきそう心の中で唱える。いつまでも人を羨むばかりじゃいけない、と。

< 2 / 166 >

この作品をシェア

pagetop