BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
唇を合わせるだけの、軽いキス。

 すぐに温かな感触はなくなって、名残惜しい気持ちで薄っすら瞼を押し上げる。
 すると、祥真の顔が瞳に映し出される前に、もう一度短いキスを落とされた。

 心臓がドキドキと跳ね回り、耳まで真っ赤になる。なかなか視線を上げられない間も、着信音は続いている。

 とうとう祥真はポケットから携帯を取り出し、ディスプレイを見た。
 僅かに眉を寄せ、その綺麗な顔に苛立ちを滲ませる。

「明日の予定は?」

 それでもまだ着信に応答せず、祥真は月穂に言葉短かに尋ねた。

「え……? 仕事のほかは特に、なにも」
「じゃあ明日の夜、あのカフェで待ってる」

 そして、『特になにも予定はない』という月穂の答えを待っていたかのように、言葉尻を重ねる勢いでそう言って、携帯を耳にあてた。

 祥真は着信主の声を耳に入れつつ、意識は月穂にあるようで、ジッと視線を向けている。
 月穂はおずおずと一度頷くと、祥真はホッとしたように目を細め、携帯を片手に雨音の中を去っていった。

 ようやく電子音が途絶えたと思えば、いつしか暗かった空が泣き出していて、静寂な廊下に雨音が響く。

 雨はあの日のキスを思い出させる。
 そして、今しがたの記憶も追加されるだろう。

 月穂はどんよりとした泣き空に反して胸がときめいていた。

 自分の唇にそっと触れ、祥真の感触を反芻する。
< 91 / 166 >

この作品をシェア

pagetop