BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
月穂がピタッと足を止め、振り返ると夕貴がいた。

「さっ……櫻田さん!」

 突然のことに心底驚き、言葉が出てこない。
 夕貴は目を白黒させる月穂に歩み寄り、明るく言う。

「急にごめんね。いくら待っても連絡こないから来ちゃった」

 夕貴は重たい空気にならないよう、軽いノリで笑って話すが、月穂の表情はこわばったままだ。

 告白をされたのに、それに対してきちんと返事をせずに今日までずるずるときてしまった。その後ろめたさのせいで、いつも通り振る舞う夕貴を直視できない。

「す、すみません。私……」
「ううん。俺も色々といきなり過ぎたとは思うし。だから、この間の話は置いておいて、ご飯でも一緒に行けたらなあって。あ、ご飯じゃなくてもお茶でもいいし」

 夕貴はすぐ横のカフェを見て言った。
 しかし、月穂は花田との約束が頭を過り、曖昧な態度をとってしまう。

「あ……。わ、私、今また職場に戻らなきゃならなくて」
「そんなふうにあからさまに避けられると、結構傷つくな」

 月穂があまりにおどおどとしてしまったので、夕貴にあらぬ誤解を抱かせたようだ。
 小さく何度も首を横に振り、慌てて弁解する。

「えっ。ち、違います! ただ本当に時間が……。今すぐ職場に届け物をしなきゃならなくて」
「そうなの? 用事は届け物だけ?」
「はい」
「それなら、このカフェで待っててもいい?」

 夕貴の言葉に、月穂はさっきよりもやや小さな声で「はい」と答えた。

 祥真との約束があるにもかかわらず、あとから割り込んだ夕貴を優先したのは、今さらながら、順序を間違えていたと思ったから。

 今抱えている問題をきちんと整理して、祥真と向き合わなければならなかった、と反省した。
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