今宵は遣らずの雨

小夜里は今こそ、居たたまれなかった。

其処(そこ)こそ、もうあの頃のような「娘」ではなかったからだ。

あの夜、民部を締めつけた「か細い道」ではないはずだ。

民部も気づいたのであろう。動きが止まった。

「おまえ……」

だが、なぜか(とろ)けるようなやさしい目になって微笑んだ。

「……大儀であった」


小夜里が問う間もなく、民部にまたあの獣の目の鋭さが戻ってきた。再び動き始める。

「吸いつくような……うねりがすごいな……」

民部の口から、思わず深くて重いため息が吐き出される。

そして、にやりと艶冶(えんや)に微笑んだ。


「……小夜里、もう一度云う。覚悟いたせ」

< 119 / 297 >

この作品をシェア

pagetop