今宵は遣らずの雨
まだ気疲れが残っているから、と云って、裏店に住む湧玄には早々に帰ってもらった。
弟子になった時分には、住み込みにしてほしいとかなり粘っていた湧玄だったが、嫁き遅れたとはいえ娘がいるので到底無理だと云って、父が突っぱねていた。
……これからのことは、いずれは考えねばならぬ。
供した茶器を片しながら、初音はもの思いに沈んだ。
いつまでも、大家や差配や町家の人たちに甘えてばかりはおられぬのはわかっていた。
初音はまた一つ、ため息をついた。
家の外を見ると、いつの間にか夜の帳が下り、ぽつぽつと、雨が降り始めていた。