今宵は遣らずの雨

兵部少輔の目が、驚きで見開かれた。

初音にぴったりと寿姫が縋りついていたからだ。

寿姫は、正室の芳栄の娘である。

「なにゆえ、此処(ここ)におるのだ」

兵部少輔は寿姫を、冷たく尖った目で見た。

「まさか、とは思うたのだが。
……毒を仕込んだのがおまえだというのは、本当(まこと)であるな」

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