今宵は遣らずの雨

男が身につけていた着物は濡れそぼっていたため、小夜里は男を(へっつい)のある土間に招じ入れた。

男は上がり(かまち)に腰を下ろして、小夜里が持ってきた(たらい)で足を濯ぎ、手拭いで濡れた身をぬぐった。

小夜里は奥の間へ着替えの着物を取りに行った。
確か、父のために縫った浴衣(ゆかた)があったはずだ。

縫い上がる前に父は亡くなってしまったから、結局一度も袖を通さずじまいだった。

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