泡沫の夜


恵理菜が見たのは、時間や場所から言って、多分きっと私に違いないと思う。

気づかれない様に変装していたのだから、それについては安心していいはずなのに、なんだか普段の自分が惨めに思えてくる。

彼だって……理央くんだって、本当の私を知ったら、きっと幻滅するだろう。

騙されたって怒るかもしれない。

でも、きっとそんな心配は無用だ。

彼が私に気付くことなんて絶対にない。

「あ、羽奏、あの店に行こう!」

私によく似た人の話は、あっという間に恵理菜の興味から削がれた様だ。

ホッとするやら、気が抜けるやら……。

「分かったから……って、待ってよ」

すでに目的の店へと入っていく恵理菜の後を追って、私もその店に入った。

ウィンドー越しに見えた物はレディースばかりだったのに、奥に入ればメンズ物も多く並べられてあった。

恵理菜の後を追って、視界の端に見慣れた背中を見つけて、ハッとした。

理央、くん?

すらりと伸びた長身。

黒のジャケットにビンテージジーンズ。

昨日会った時に着ていた彼の服装とは違うけれど、見慣れた背中に彼だとすぐに分かった。

「理央!これ見て?」

可愛らしい声が聞こえて、その声の持ち主が理央くんだと思ったその男性に近づいていく。





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