その音が消える前に、君へ。


一つ風が吹き抜けていくのを感じながら、整ってきた息と共に吐き出した。



「榊くん。きっと君は何かを抱えながらも、命と共に戦っている」


「っ!!」


「それをどうにかしようと、ここを経つんでしょ」



澄んで聞こえる榊くんの音……それは、命の音。

心音とは全く違う彼の透き通った音色。

私は生きる物全ての生きる音と、死ぬ前の音を聞くことができる。

澄んでいる音は生を全うし、濁る音は何かによって生を奪われて死んでいく。

言わば未来予知のようなものに近いと自分では思っている。

何かによって死ぬ、それが分かる時は注意してくれるように伝えれば死を免れることも出来るかもしれない。

それが今まで出来なかった、裏切りが怖くて……自分の立ち位置を失ってしまうのではないかと思う自分が可哀想で。


「隠さなくていい。私には分かってる。それが私の力なの」


「……そ、そんな裏切りを犯してまで菅原さんが俺に伝えなくてもーー」


「後悔したくなかった」


下唇を噛み締めて、過去の記憶を押し殺したかった。




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