その音が消える前に、君へ。

それでもその一時が幸せで、この感情をもっと求めたいと思う。

榊くんを知りたい、もっと、もっと……

そう思っては、臆病ながらも榊くんに声をかけては短い会話をする。

どんな趣味があるのか、好きな食べ物、好きな場所。

榊くんから発するその情報一つ一つが、私の心を満たしていく。

それが嬉しくて、甘くて、知らなかったこの感情が楽しくてしょうがない。


「紗雪ここずっと幸せそうだよね」


「……そう、かな」


「素直じゃないー!」


「さゆちゃん可愛い〜」



三人から弄られても否定もできない上に、恥ずかしさで抵抗できないそんな自分がいた。

もう分かっている、この感情の正体が何なのかを。

ただそれを伝えた所で、何かが壊れてしまうんじゃないかと思って言えずにいる。

神様は本当に面倒な試練をいくつも用意しては、それを高みの見物をしてるんだから、悔しい。




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