【完】溺れるほどに愛してあげる
あたしのことを大事だと言ってくれた。
でも実際は千景がこの7年間ずっと憎んできた刑事の娘だった。
これを知った千景はどうするだろう?
…そんなの手に取るようにわかる。
離れていくに違いない。
それしかない…
やっと出会えた、大好きで大事な人。
絶対に離れたくない人。
それなのに…このことを知ったら千景はあたしを見るたびに傷つくかもしれない。
そんなの耐えられない。
千景から離れるよりも耐えられない。
「うぅっ……っ」
部屋に戻ると、すぐに涙がこみ上げてくる。
喉も熱くなって、嗚咽が出る。
このまま、知られなければ一緒にいていいの…?
嘘をついたまま、隠したままでいいの?
そんな正義感から来る感情と、
それでも一緒にいたい。
知らぬが仏、バレなきゃいい。
って悪い感情があたしの中で衝突し始める。
好きだから一緒にいたいのに、好きだから離れなくちゃいけない?
なんて残酷。
あたしと千景が出会う確率は奇跡っていうほどに低くて。
千景が憎んだただ1人に出会うなんて、もっと低い。0に近いくらい低い確率なのに…
その2つの低い確率が重なった。
0と言っても過言ではなかったかもしれない。
でも、それが起こってしまった。
あたしは何か悪いことをしたんだろうか?
その罰?
あたし達のお父さんのことがあって、だからあたし達は出会ったの?
"因縁"…だったの?
あたしは、どうしたらいいの…
正直に話す?
離れていってしまうのを覚悟で?
…やっぱり耐えられないよ…
千景と離れるなんて。
一緒にいられないなんて。
ごめんね、千景。
ずっと憎んでた人はあたしのお父さんでした。
だけど…隠させてください。
あたしのわがままをどうか…許してください。