【完】溺れるほどに愛してあげる


神社を出て、人気がなくなってからもあたしの左手は金田の右手と繋がれていた。


"はぐれないように"


その理由はもう…使えない。


金田がどう思ってるかもわからない。


手を繋ぐ感覚に慣れてしまって忘れているのか、手を離さないのには他に理由があるのか…



どちらにせよ、あたしがこのことに触れることはなかった。


どんな理由でも…この手を離したくない。離されたくない。



…ずっと、繋いでいたい。


金田と繋がったままでいたい。



こんなことを思うのは自分勝手で自分本位な考えなんだろうか。


それでも金田の隣は、誰よりも近いこの場所はとても居心地が良くて幸せな気持ちになれるんだ。





「ここだよ、この丘」

「本当に誰もいないんだ」





本当に穴場のスポット。


人もいないし、花火は何にも邪魔されず綺麗に見える。



花火が打ち上がるまでもう少し。


あたし達は丘の1番上まで登ってきた。





「もうすぐだね!」

「…あのさ」

「うん?」





金田が改まったように真剣な顔をする。


こんな状況に似つかわしくないその重い言い方にあたしも首をかしげながら金田の方を見つめる。





「…好きなんだ」





金田の一言の後に


ドーーン、ヒュルヒュルヒュル…ドーン


大きく、カラフルな花火が打ち上がる。


音が胸に響きながら、頭は動きを停止した。


…いまなんて?


意味がわからなくて、意図もわからなくて。





「…え?」

「だから。好きなの」





花火の音の方が遥かに大きいはずなのに、耳に入ってくるのは金田の声だけ。


それだけが頭の中で何度もエコーがかかったように繰り返し流れる。





「ずっと考えてた。何でこんなに気になるのか」

「金田…?」

「俺を惚れさせるとか本当に何者なの」





さっきから、金田の口から出る言葉が信じられないことばかりでまだ理解が追いつかない。


金田が…あたしのことを好き?


これは、夢ですか?





「俺のこと…どう思ってる?」

「あ、あの…」





あたしの気持ちなんて決まってる。


"好き"


その一つだけ。



だけど…

この場で言うのは非常に恥ずかしすぎる。


だって見ているから。みんな…見ているから…



それでもあたしを一点に見つめる金田の目は真剣そのもので逸らせることなんてできない。





「す、好き……だよ…?」





ずっと、ずっと好きだった。


金田はあたしなんか眼中にないってそう思ってたのに…こうして同じ想いだったなんて。


もうこれ以上の幸せはないってほど嬉しいんだ。



あたしの消えてしまいそうなほど小さい言葉を聞いた金田は、あたしをぎゅっと抱きしめて耳元で





「…優愛」





そう呟いた。


ねぇ、どうしてそんなにあたしがドキドキするようなことばかりするの?



今、あたしの心臓が壊れそうなくらいバクバクいってるって知らないでしょ?





「溺れるくらい愛してやるから覚悟しとけな」





ふっと身体を離すと、もう一度近付いてきて唇にキスを落とす。


ただぎゅっとされただけでも心臓がおかしくなりそうなのに、キスなんて…しかも心の準備も何もしていない不意打ちなんて、もはや心臓が止まってもおかしくない。



唇が触れている間あたしは身動きひとつ…息すらできなくて、顔が離れてやっと思考が追いつく。



キスをされたと認識した瞬間、後ろから沸いた声が起こる。





「おめでとうございます!!!」





それは…


物陰に隠れていた亮くん達だった。

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