ひょっとして…から始まる恋は
「人はぎゅっと握っている手を自分から広げた時に逃げていく夢や希望を追いかけて生きていくんだって」


だから、赤ちゃんはそれを早く逃がさない為にぎゅっと手を握っているのだ、と教えられたそうだ。

同級生達は一様に深イイ話だね…と頷き、私はその言葉を胸にしながら天音の赤ちゃんを見つめる。


この小さな手の中に握られているのは夢や希望。
だけど、私が今まで追い続けてきたものは、切ない恋心しかない。

もしかすると、私はこれからも切なくて苦しい日々を送る為に生きていくのだろうか。
新しい恋もしないで、届かない相手を想い続けていくの?


悩んでいたら、フニャとしていた赤ちゃんの顔が急に赤くなって歪んだ。
まるで自分の気持ちが彼女に移ったのかと慌てたが、おっぱいの時間だと教えられた。

急いで赤ちゃんを天音に返し、それじゃね…と皆で病室を後にする。
空腹を訴えて泣く声に耳をすませながら病院の廊下を歩き、新生児室の前を横切って外へと出た。


外には初夏の様な日差しが降り注いでいる。
それを見上げて、自分も新しい何かを求めてみたいと感じた。


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