わたしの読者
わたしの読者





余計な音を拒んだ場所。薄暗く落とされた照明。少し肌に冷たい空調。


そして、古臭い紙の匂い。


あたりは人の気配より、本の存在感のほうが、圧倒的に勝っていた。


それらは固定の主を持たず、ここを訪れた生徒たちに次々と手に取られては、またここに戻ってくる。


ここは、公立にしては蔵書の多い事で有名な中学校の図書室だ。


狭い足場を囲む、整頓された本の壁。


見慣れた景色。嗅ぎ慣れた匂い。外から聞こえてくる聞き慣れた誰かの喧騒。広く誂えられたた大きな教室なのに、利用者が少ないのも、いつものこと。落ち着く、場所。


なのにわたしの視界には、本以外のものが映りこんでいた。


「ねえ、聞いてる?」


本は、さまざまな事柄を内包している。フィクション、ノンフィクション。幻想、現実。この世、あの世。夢……


これは、夢かもしれない。


本が好きなあまり、夢の中でも図書室の夢を見てしまっているのか。


「ちょっと、」


本は、さまざまな事柄を内包している。ただし
――本は語るが話さない。


「ねえ、」


読者にそっと寄り添ってはくれるが、自ら歩み寄ってきたりしない。そもそも本に足などない。


「固まっちゃってんの?」


紙の匂いはすれど、こんな人臭い、シャンプーの匂いとかはしない。


「……おもしろいね」


もっと、落ち着くものだ。


けど、



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