わたしの読者
「なっ、なんなの?」


本を読んで、ハラハラドキドキすることは、常にあり得る。


わたしはひとまず、距離の近くなった相手の男の子から遠ざかる。


「なにって? だから言ったじゃん。きみが図書室の利用者だなんて思わなかった。意外だよ。とても興味深い。きみのことがもっと知りたい。だから、」


わたしだって、ここにわたし以外いるとは思わなかったし。しかもそれが、クラスメイトだなんて。まさかだった。


でも、それよりこの人がさっき言ったのは、


「きみのことが好きだ。俺の主人公になってください」


繰り返して言われたからって、わからないものはわからない。


「は、はあ?」

「俺の言ってることが、わからないわけじゃないだろう?」

「いや、わかんないから」


わたしがそう言ったら、きょとんとしている。


いや、なんでよ。


「小説とかの、物語の本を読む時、登場人物のことが気になるだろう? とくに主人公のこととなれば特別。主人公のことは、何でも知りたい。いつ何時でも、何処にいて誰といて何をして何を思っているのか、全部知りたい。読者としては、そう思って当然じゃないか? だからページを捲る手が止まらない。もっと知りたくなる。きみは、資料や学術書だけでなく、物語の本も数多く読んでいるだろう。……きみなら、わかると思ったんだけどな」


きょとん顔が、納得いかない顔になっている。


「俺はきみが好きだ。興味がある。だから俺は、きみの読者になりたい」


こちらとしてはあまり納得出来ないけれどここはひとまず納得しよう。なるほど、そういうことか。


「……それなら、わかる、かも。けど、説明省きすぎだし。ていうか何でわたしが本好きって知ってるの」

「きみがここで俺を見たのは初めてかもしれないが、俺はそうじゃないから」

「なっ!」

「黙っててほしいんだろ?」


こいつ。


「……なに、まるでわたしのことわかってるみたいに」


すると、肩をすくめて、言った。


「すでにきみのあらすじは読ませてもらったからだよ」



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