キミのことは好きじゃない。


目紛しく過去の回想を夢に見た。


夢だと思ったのは、もう1つあり得ない感覚を覚えていたから。


聞き慣れた颯斗の声が何度も私の名前を呼んでいた。


聞き慣れた颯斗の声なのに、声の温度がいつもと違う。


私の名前を愛おしげに、そして時に甘く。


薄っすらと視界に浮かぶ颯斗の表情も、何かに耐えているかのような、苦しげに見えた。


そっと手を伸ばして颯斗の頬に触れれば、颯斗は私の手を取り自らの唇に寄せた。


全てが現実ではあり得ない光景で。


颯斗がこんな風に熱い目をして私を見つめるのも、そして優しく触れるのも……。


夢ならば、今私は最高に幸せな夢を見ている。


このまま覚めなくてもいいと思えるくらいに。




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