キミのことは好きじゃない。
「……百合」
泣き出してしまった私を前にして、颯斗の言葉が途切れた。
泣くつもりなかったのに。
「泣いてないっ、泣いてないからっ!」
明らかに泣いているのに泣いてないと怒鳴る私はカッコ悪い。まるで駄々っ子だ。
机に突っ伏して顔を隠した。
恥ずかしい。いい歳した女が何泣いてるんだ。
自己嫌悪に陥りながら、それでも精一杯強がる私はなんて滑稽なんだろう。
こんな、昔話にムキになって……昔話?
そっか、昔話だ。過去の話なんだ、全部。颯斗が私を好きだと言ったのも、昔話。
だって、そうだ。
好きだった……そう言った。
だったって、過去形。
今は、いるじゃない。颯斗には特別なコ。
じゃあ、今までの話は過去の清算?わざわざここに来て、昔の恋を清算して新しい恋を始めるための?
なんだろう。さっきまで天にも昇る心地だったのに、過去の清算だなんて考えたら一気に谷底に落ちて行く気分だよ。
だめだ。
これ、だめなパターンだ。
不意に浮かび上がってきた思いが、落ちて行く自分を谷底の途中に引っかからせた。
変わらなきゃと、突然強い思いに後押しされた気がした。
高校生の、あの頃だったらこのまま逃げても仕方なかったと幼さを理由に誤魔化して、それが許されていたかもしれない。
でも、今の私は23歳の大人だ。
逃げてばかりじゃ問題が解決しないことを知ってる。
それは、仕事だけじゃなくても恋でも同じだと知ったはずだ。