エンドレスブルー
「何かもう終わりかって思う時があるんだよな」


何もおかしくないのに津田はそれでまた笑った。


わたしは馬鹿みたいに泣いた日もあったし、津田は馬鹿みたいに時間をもてあましていた。


確かにどこかに行くなら時間的な余裕なら十分だった。


でも津田が言った事はおかしい事だ。だってわたしはどこにも行けてやしない。


そんな事津田も知ってるような気がしていた。


知ってて言っているそれにさえ救われていた。


さっきから抱きしめられているせいで腕や手の甲や首のつけねが少しあたたかい。



この熱には、ここはまだ夢の続きだと、思わせる、見えない力がある。


4年前、本当にやってきた津田は途中から降ってきた雨で少し濡れていて、わたしはというと2時間半前にとばした電波で聞こえた声が今ここにいる事が不思議だった。


そうして泣いた。


その日からわたしはきっとあんまり変わってなどいない。相変わらず青白く照らされながらわたしは泣いていて、


「でも今、ちゃんと、」


わたしが泣いてる事何か無視して、


「ここにいるみたいでよかった」


そう言って力が込められた津田の腕は確かにわたしの体を抱きしめ、そんな事を、津田は言ったのだ。


それは夢の続きの類だった。


夢のようなとても綺麗な、綺麗な映画のシーンをわたしは遠くから見ている気がした。


あまりにも柔らかい熱に包まれて見る夢。確信や未来の無い世界。


目覚めることを乞い明日に背くような矛盾に許される、救われる。悲しい青白い、夢。


これが映画なら、エンドロールで泣いてしまえば終わる。


でも、物語なんてここにはない。


抱きしめられた時、違う体温はゆっくり時間をかけて同じになってく事が、確かに、嬉しかった。


この熱は愛されているからなのだと思ったからだ。


同時にこれは自分のものではないとわかって、涙が止まらなかった。




「俺、お前の事ちゃんと、好きなんだけど」




悲しかったのは例えば、愛してると言っても、思っても、何も残らないとそういう事。


わたしはその事実に今でも立ち尽くしてしまう。


それでも時間にさえ、愛は重ねられると言って欲しくて4年前からわたしはまだそこにいるのだ。


ぼんやり見ていた先には、いつも何も何も見えてこなくて、それなのにいつまでも見つめてしまう。


いつだって、 抱き締められた、津田の体温は愛されるべき人間にあるんだな。そう思った。


わたしはあの人を見るようにして本当は、置いてきてしまった自分の心が帰って来るのを待ってる。


それでもこれが綺麗な映画に思えてよかった。


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