Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 ヴェイニーは働き者だ、そしてなにより料理好き。

 ヴェイニーとって、料理ができるか否かが、相手を判断する
 ときの重要な基準のひとつで王妃の価値は、彼女の中ではおそろしく低い。



 数日が経ち、体力や気力が回復してミュアが普通の生活ができるように
 なると、ヴェイニーは、ミュアに料理をしこみはじめた。


 ここの台所では、気品や教養はなんの役にもたたなかった。

 そのかわり、驚きと発見と、失敗を笑いとばす笑顔と、
 味わいお腹を満たすという素朴な喜びがあった。


   
    「ぼっちゃんはね、簡単な料理なら一通りこなせますよ」



 誇らしげな顔でヴェイニーは言うが、グレイがフライパンを
 ふるっている姿を想像するのは難しい。

 包丁なら似合いそうだが、人参(にんじん)をみじん切りに
 する姿は……。

  …… 似合わないわね。

 それになにかにつけて、ヴェイニーがグレイのことを
  “ ぼっちゃん “ というのもおかしかった。

 彼は、もう “ ぼっちゃん “ と呼ばれるような年齢ではないし、
 そう呼ばれる年齢のころだって” ぼっちゃん “ という呼び方が
 似合う少年ではなかったことを、ミュアは知っている。




 彼は、時々、王城からここにやってくる。

 そして二週間が過ぎた日、グレイはシルヴィをつれてやってきた。


   
    「シルヴィ……」



 彼女はすこしも変わっていなかった。

 美しくしなやかな銀の身体、オニクスと同じ、金の瞳。

 銀の毛に指を埋めシルヴィを抱きしめて、ミュアは泣きたいだけ泣いた。

 シルヴィはじっとしていて、そんなに泣かないでというように、
 ミュアの涙をぺろっと舐めた。




 
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