Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
でも、ただひとつ ー ー
ミュアは、今、王と王妃の寝室の広いベッドの上に座り、
初夜と同じくらい緊張している。
いや、緊張とはすこし違うのかもしれない。
胸がどきどきして、すこし苦しい。
こんな気持ちでグレイが部屋にやってくるのを
待ったことは一度もない。
同じ部屋で眠るのはすごく久しぶりで、頭の中にグレイが
部屋にはいってくる姿ばかりが思いうかぶ。
部屋に入ってきて、そして……
部屋にはいってきた彼はどうするだろう……。
やっぱり長椅子で寝るの?
突然ミュアはその長椅子を片付けてしまいたくなった。
部屋の中に長椅子がなければ、問題は解決するのではないか?
いや、でも、長椅子があったとしても、
今の、グレイは……、…… 。
そう考えて、頬がじんわりと熱くなり、だめだめだめ !と
自分にストップをかける。
はしたないことを考えすぎだ!!!!
王妃らしさを、どうやらどこかに置いてきたらしい。
そのときドアが開く音がして、ミュアはわずかに飛び上がった。
おそるおそる目を向けると、グレイが部屋にはいってくるところで、
彼はすたすたと歩き長椅子のところへいくと、
毛布と上掛けを手にとり、くるりとミュアのほうをむいた。
「おやすみミュア、ゆっくり休んで」
そう言い、長椅子に横になり、ミュアに背を向ける。
日常の、繰りかえされた、見慣れた姿だった。
いや、ミュアに “ おやすみ “ と言ったことが少し前とは違ってはいたけれど。
でも、でも……。
ミュアはもうすっかり正気で、幻を見ることなどもうないはずなのに、
突然、長椅子に口ができ、
「俺を片付けるだって? ふざけたことを言ってんじゃねぇ!」
と言ったような気が……した。