Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 朝日の差し込む部屋でぼーっとしているミュアの前に


   
    「王妃様の体調がすぐれませんでしたので、
     控えておりましたが」



 と言いながら、デリアが紅茶のカップをおく。

 ああ、そういえば朝はデリアのいれた紅茶を飲むのが習慣だったと
 ミュアは思い出す。

 紅茶はデリアのような味がした。

 ヴェイニーのいれるリキュール入りの紅茶が懐かしかった。





 胸に書類の束をかかえ南棟にむかう回廊を歩きながら、
 クロエは、今朝見たものについて考えを巡らせていた。


 ミュアリス様の胸にキスのあとがあった。

 情熱的な赤いあとを誰がつけたか、なんて決まっている。

 
 ウォーレス陛下が亡くなり、まったく政略的にグレイ陛下と
 結婚することになったミュアリス様だけど、
 昨日、王城に帰ってきたときの二人には、以前とは違う雰囲気
 があった。

 二人の距離が近づいてグレイ陛下がミュアリス様を愛し、
 ミュア様もそうならこんなに喜ばしいことはなく、
 だから、胸にキスのあとがあるなら問題はないが。

   ーー 今朝のミュア様の様子は……

 男性に愛されてともに夜をすごし、朝を迎えた女性のものでは
 なかったようにクノエは思う。

 経験があるわけではないから、はっきりとはわからないけれど、
 恋愛小説の描写や、今まで漏れ聞いてきた話とは違うような気がする 。
 

   まさか! 無理やりだった……のだろうか。


 たしかにグレイ陛下は王族らしからぬ振る舞いをされる方ではあるけど。

 でも、もしそうだったなら、あのミュアリス様が黙っているはずがない。
 反撃にでたはずだし、まっさきに私になにか言うはずだとクロエはひとり頷く


 今朝の、彼女(ミュア)はぼーっとして、元気がなかった。
   腑におちない……。




< 115 / 192 >

この作品をシェア

pagetop