Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
   

    「あの船のかざりが、オーガみたいだもの」


 グレイは驚いた。

 少し先に錨を下ろしているグレイの帆船の船首のかざりを、
 少年が “ オーガ ” と言ったからだ。



 普通、船首の彫りものは、海にちなんだものが多い。

 海神や女神、神話上の海の生き物。


 だから、グレイの船のかざりを見ても、たいていの人は、
 南方の島に生息する ” 豹(ひょう)” に角をつけたものだろう
 と思い、 “ オーガ ” とはいわない。

 オーガは内陸の山地にすむ生き物だから。


 しかし、彼は、オーガ、と言った。



 目の前の少年の格好は貴族のものじゃない。

 粗末ではないが、まあ、普通の庶民のものだ。

 そのうえ不釣り合いなほど大きな帽子をかぶっていて、貴族にも、
 金持ちの子弟にもみえない。
 

  ー ー それなのに、オーガを知っているのか?


 なんとなく興味をひかれ、少年が指差していた自分の船をふりかえって
 見つつ、少年にむかってグレイは足をすすめ、少年もまた、船を見ながら
 グレイのほうへむかって歩きだしふたりの距離が縮まったとき、
 突然の突風が、ふたりの帽子をふきとばした。

   

    「あ!」



 もつれあうようにして、同じ方向へところがっていく帽子。




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