Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 
    「クルトムダーヌ、フサマリウス、デュア、フゥール......」


 聖堂の石造りの広間に、言葉が音になり広がっていく。
 低い声で紡がれる古代語の長い祈りが、渦をつくり、ドーム型の天井へ
 高く高く昇っていく。
 
 その清廉な響きに耳をかたむけているうちに、海の上を吹く風が凪ぐように、
 心が落ち着いていくのをミュアは感じた。


 隣にいるのは、憧れつづけたウォーレス陛下じゃない。
 なぜだか最低な出会い方しかしない因縁付きの相手だとしても、
 私はこれからアルメリオンの王妃となるのだ。

 それがウォーリスの望みで、自分がそれに応えられるのだとしたら、
 堂々としていよう。
 今までどんなことがあったせよ、今、ここからが始まりなのだから……。


 祈りが終わり、大祭司が誓いの言葉をうながす。
 グレイに続き、ミュアは頭を高く上げ、凛とした声で、誓いの言葉をのべた。


   
    「それでは、陛下より王妃へ、至愛のキスを」



 そう大祭司に言われ、ミュアは目を伏せたままゆっくりとグレイの方へ
 身体をむける。
 グレイもまた、ゆっくりとミュアの方を向く。

 彼がひどく驚いた顔をしていたとしても……
 七年前のまま冷たい目をしていたとしても……
 平気な顔をしていよう。
 
  優雅に微笑んでやり過ごすのよ!

 心の中で自分を励まし、目線をあげる。


 しかし、グレイの顔には、やっぱりなんの表情もうかんではいなかった。
 
 ゴールド・アンバーの瞳が、ミュアを見下ろしているだけだ。
  
  戴冠式のときの女だと気付いていない?
  七年前の出来事は、もう忘れてしまった?

 思ってもみなかった反応にミュアはしばし躊躇ったが、それならそれで、
 初めて会ったかのように、淑女らしく振るまえばいいと考えた。

 自分を見下ろすグレイにむかって、麗しく優美に微笑んでかすかに顎をあげ、
 右頬をむける。

 こうすれば、形式通りグレイは、ミュアの頬に軽いキスを落とすだろう。

 だが……。



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