Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


    「ミュアリス様、起きてください」


 呼ばれてかすかにあけた視線の先に、侍女のクロエの呆れたような顔を見て、
 ミュアは今度ははっきりと目を覚ました。
 隣にいたはずのシルヴィはいない。
 少し目を閉じていただけだと思ったのに、結構な時間がたっていた。

 慌てて起きあがると、絹糸のようなプラチナブロンドの髪が、さらりと背中に
 こぼれる。



    「夜更かしをされるから、朝、起きられないんですよ」



 そう言いながら、クロエが、水差しからコップに水をそそぐと、ミュアに
 差しだした。



    「夜更かしなんかしてないわ」



 寝坊の理由を言いあてられて、コップを受け取りつつミュアが言い返すと
 クロエは意地悪な笑みを口端にのぼらせた。

   

    「そうでしたか? じゃあ、その枕の下から覗くものはなんでしょう」


 
 はっとミュアがすばやく振り返り、クロエの目にとまったものを枕の下に
 押し込む。


   
    「 オニキス王と銀の姫 」



 クロエは意地悪な笑みをますます深くすると、ミュアが隠した本のタイトルを
 すらすらっと言った。


   
    「ち、違うわ!」
    「あら、そうですか、” オニキス王と銀の姫 “ という、今、巷で人気の
     恋愛小説なんですけど、オニキス王と呼ばれる、黒髪に、黒い瞳の
     国王が、そりゃあとっても格好よくて!
     そう、まるでアルメリオン国のウォーレス陛下のようなんですよ。
     作者はきっと、ウォーレス陛下をモデルに小説を書いているに
     ちがいないって、そう噂されています」  
    「そ、そうなの?」 



 とぼけてそう答えたけれど、そしらぬ振りとは裏腹に、ミュアの頬はよく
 熟れたさくらんぼ色になった。

 本当は全部知っている。
 オニキス王の格好よさも、王が姫にどんな風に愛を囁くのかも。
 それを自分とウォーレス陛下に重ね合わせ、どんなに胸を高ならせて
 いるか……。
 ミュアの頬がうっすらと色づいたのを満足そうに見やって、
 クロエが言った。


   
    「陛下のことを想って、小説に夢中になるのも仕方ありませんね。
     本当なら今頃は、アルメリオンの城で、おふたりで一緒に
     過ごされているはずですもの」



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