大切なものを選ぶこと



「あの…お名前、聞いてもいいですか?」





「秋庭弘翔(あきばひろと)」





「秋庭さん…」





「君は?」





「あ、横手美紅っていいます」





「下の名前、呼び捨てに抵抗あるか?」





「え?いや、大丈夫です」





「ん、じゃあ、よろしく美紅」





そう言って穏やかに笑った秋庭さんはやっぱり恐ろしくイケメンだった。




‘じゃ、俺は帰りますかな’

ひらひらと手を振って足を進めた秋庭さんは、思い出したかのように振り返った。




「なぁ、美紅。
今の彼氏と別れる気はないのか?」





「……別れられないんですよ…」





「そうじゃない。美紅の気持ちを聞いてるんだ」





「……わからない…です」




怖いから別れたくないのか、好きだから別れたくないのか…



自分でもよくわからない…。




私の返答に‘そうか…’と低く呟いた秋庭さんは一瞬だけグッと眉間に皺を寄せてから何事もなかったかのように公演を出た。





──私も数分だけぼーっとした後、公園を出て悠太の待つ家に向かった。




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