大切なものを選ぶこと
「もう好きじゃないのに…別れることもできなくて…ッッ」
止まったはずの涙がまた出てくる。
今日はよく泣くなぁ…
隣に座っているこの人がどうしようもなく安心させてくれるおかげか…
それとも私がただ誰かに話を聞いて欲しかっただけなのか…
──それからポツリポツリと私と悠太のことを話した。
悠太が働かなくなったこと、私が生活費を一人で稼いでいること、そして…浮気されていることを。
暴力を振るわれていることと、脅されていることだけは…どうしても言えなかった。
「──聞いてくれて…ありがとうございました…」
男性は私の話を最後まで口を挟まずに聞いてくれた。
ずっと一人で溜めていたことを口に出して、誰かに話を聞いてもらうのってこんなに気持ちがラクになるのか…と思うほど心がすっきりした。
「少しはラクになったか?」
「はい…だいぶ…」
「そりゃよかった」
そう笑って男の人は腰を上げた。
「君の話を聞いてさ思うことはあるけど、俺が口を挟むのは違うと思うから何も言わない」
‘ただ…’
「いつでも話なら聞くぞ。こうして会ったのも何かの縁だしな。
大体、今日と同じ時間の同じ曜日にここにいるよ」
低くて掠れた…やっぱり甘い声で言って笑った。