料理男子の恋レシピ
麻婆豆腐
省吾side

加奈子が家事をするようになって、3ヶ月ほど。すっかり、この生活に慣れてしまった。

もともと、家事が苦手なわけじゃないけれど、それに取られる時間がイヤだった。
加奈子がするようになってからは、家事を気にしなくていい分、仕事に集中できる。

'ギブアンドテイク'
そう言ったのは俺だけれど、ここ数週間はそれどころじゃなくて、ひたすら加奈子に世話になりっぱなしだった。
申し訳なくて、貰い物のお菓子を加奈子にわかるように置いておいたりもしたけれど……そんなことじゃ足りないくらい、助けられた。
片付いた部屋ときちんとアイロンのかけられたシャツ。
最近は洗い物も洗濯もなにもできてなかったから、全部加奈子がしてくれた。
そして。
いつからか、家に帰るとおにぎりが準備してあるようになった。
'おつかれさまです。味の保証はできませんが、よかったら召し上がってください。体に気をつけてくださいね。'
加奈子のメモに頬がゆるむ。
加奈子の気持ちが、優しさがうれしい。
おにぎりは、形がいびつだったり、味もしょっぱかったり薄かったり。決して美味いといえるものではなかったけれど、全部食べた。加奈子が作ってくれたものを残す気にはなれなかった。

やっと仕事も一段落し、今日は久しぶりに加奈子に料理を教えることになっている。

いつものように加奈子と午前中買い出しに行き、昼御飯を食べたあと、俺はすぐ仕事を始めた。

そろそろ加奈子と晩御飯を作ろうと、時計を見ると16時50分を指している。
「加奈子、ごめん!!」
慌てて回りを見るものの、彼女の姿はない。

ふと、コーヒーカップが目にとまる。
俺が広げた書類から少し離れたところに、コーヒーにクッキーが添えて置かれていた。横にはメモも。
'お仕事、おつかれさまです。お邪魔になるといけないので、一旦帰りますね。17時になっても連絡なければ、また来ます。
p.s.休憩も大事ですよ。'
何気ない、優しい気づかいが愛しい。

彼女は、こういう気づかいがさりげなくできる。
だから、そばにいて居心地がいい。

今まで、何人か付き合ったことはあるし、自慢じゃないがモテるほうだと思う。
でも、今まで居心地のいい存在はいなかった。

向こうから言い寄ってきたり、勝手に彼女気取りだったり。そういうのが面倒くさくて、付き合ってない女と2人には絶対にならないようにしていた。
いいと思って付き合った相手も、仕事で構えない俺に愛想をつかし、関係が壊れていく。

だから、合コンなどその場で飲むのはいいけれど。特定の女と関わるつもりなんてなかったのに……

彼女に声をかけたのは、
俺に気がないのが明白だったのも声をかけた理由の一つ。
でも、彼女の事情と切羽詰まった様子に絆された。というよりは、まわりにいないタイプの彼女に構ってみたくなった。
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