料理男子の恋レシピ

カチャカチャと玄関から音がする。
時計を見ると17時をまわっていた。加奈子が戻ってきたのだろう。
玄関の方へ向かうと、加奈子が玄関から顔を覗かせた。
「あ。省吾さん、お仕事終わりましたか?連絡ないので来たんですけど……大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。コーヒーありがとう。」
そういうと、加奈子がホッとしたように笑う。

「今日は麻婆豆腐でしたよね?」
「あぁ。早速作るぞ。」

2人でキッチンに並ぶ。
「材料は、これ。」
ひき肉、豆腐、ネギ、片栗粉、甜麺醤、豆板醤などなど。
今日は麻婆豆腐の素を使わず作る予定。

最初は心許なかった、加奈子の手つきも今は気にせず見てられる。

確かに、最初の頃は凄まじかった。なんで、それを知らないのかと思うことは多々あったし、包丁の使い方すら危うかった。できないくせに勝手なアレンジを加えるから、味も残念なことになる。
でも、加奈子はとても素直で、教えたことはどんどん吸収した。

そろそろ、教えるのも終わりかもしれないな…

加奈子は俺じゃない誰かのために料理を練習してる。
俺なら、加奈子が料理ができてもできなくても、加奈子自身を受け入れるのに。

俺じゃない誰か、か………
不意に、拓海と加奈子の様子が頭を過った。

2人並んで楽しそうに微笑む姿。
そして、そのあと流れた噂……
'白石と西原が付き合っている'
でも、おそらくはデマ。
加奈子自身からは聞いてない。彼女のことだから、付き合うことになれば、ちゃんと言ってくるだろう。

とは言え、時間の問題かもしれない。
少なくとも、拓海は加奈子を愛しそうに見ていたから。
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