王太子の揺るぎなき独占愛



 ファウル王国に初雪の知らせが届くまでに、王家の森は冬支度を終えた。
 多くの木々は自らの生命力により冬の寒さをしのぐ手立てを持ち、取り立てて手をかけることはないが、薬草に関してはそうもいかず、今回は温室を一棟増やした。
 騎士たちの手にかかればあっという間に完成し、これまで冬の間の供給が追い付かなかったリュンヌも、新しい温室で今まで以上の量を育てることができる。
 毎年冬になると腰が痛いと言ってはリュンヌを求める者も多く、在庫を確認しながらヒヤヒヤすることもかなりあった。
 けれど、これからはそんな心配はしなくて済みそうだ。

 週に二度、サヤは城下にふたつある医院を回り薬の在庫を確認するのだが、寒くなってきたせいか、そろそろ補充しなければならないほど減っていた。
 必要な量をノートに書き出しながら、急いで調合しなければならないものをピックアップしていると、可愛らしい声でサヤを呼ぶ声が聞こえた。
 振り返ると、薬品庫の入口に、小さな女の子が立っていた。

「サヤおねえちゃん、のどが痛いからお薬ちょうだい」
「え、マリアちゃん、風邪をひいたのかな?」
「うん。昨日からお熱もあるの」
「まあ、かわいそうに」

 サヤは駆け寄って腰をおろし、赤い顔をしたマリアの額に手を当てた。

「まだお熱がありそうね。しんどいわよね? えっと、お母さんは?」
「先生とお話してる」

 かすれた声の小さな女の子は、城下で食堂を開いているアデーレとロザリーの娘マリアだ。
 三歳の活発な女の子で、ときどき食堂に立ち寄るサヤが大好きでよくなついている。



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