王太子の揺るぎなき独占愛
サヤはマリアをゆっくりと抱き上げ、部屋の片隅にあるいすに座らせた。
普段はじっとしていないマリアだが、サヤに逆らうことなくいすの上でじっとしている。
よっぽど体がつらいのだろう。
「マリアね、ちゃんとお薬を飲めたらアイスを食べてもいいの」
「あら、それはいいわね。お薬をちゃんと飲んで、マリアちゃんが大好きなアイスを食べたらすぐに元気になるわよ」
「うん。でもね、サヤおねえちゃんが作ってくれるお薬ってとっても苦いの。前ね、ぺって吐いちゃってお母さんに叱られたの」
顔を歪めて話すマリアがかわいくて、サヤは思わずくくっと笑った。
「そうね。お薬は苦いわよね。でも、ちゃんと飲まなきゃ治らないから頑張って飲もうね」
「うん。マリア、アイスを食べたいからがんばる」
へへっと笑うマリアの声はか細く、眠そうだ。
「あら、大好きなサヤお姉ちゃんに会えてよかったわね。でも、風邪をうつしちゃうかもしれないから、早く帰ろうね」
マリアの母ロザリーが薬品庫に顔を出した。食堂で料理をふるまっている彼女は五人の子どもの母親で、何があっても動じない逞しい女性だ。
彼女の料理はとてもおいしくて、サヤは悩んだり不安なことがあるといつも食べにいく。温かくておいしい料理を口にするだけで、元気になるのだ。
いつも大勢の客でにぎわう店は、明るく清潔で、サヤの癒しの場でもある。
そして、城下の出身であるサヤの母カーラの幼なじみであるロザリーは、サヤを自分の娘のようにかわいがっている。
平民であるカーラが名家ルブラン家に嫁ぐと決心して以来、ロザリーは大変な苦労をするに違いないカーラを支え続けた。
ときには警護すらつけずにやってくるカーラを手料理でもてなし、親友にすら言えない悩みを抱えるカーラを励ましてきた。
今ではサヤもロザリーに懐き、何かあるたびに彼女の食堂を訪れているのだ。