【完】そして、それが恋だと知った日。

突然の言葉にびっくりして。
ガシャン、と鎖部分の音を立ててしまう。
その音にびっくりして思わず謝ると。
大丈夫、と笑って伊澄くんは答えた。


「小笠原さんって、塾とか行ってる?」


「い、行ってない。」


「俺、さ数学やっぱり伸びなくて塾行こうかなって思っててさ。その時小笠原さんが英語苦手って言ってたの思い出して。凛久が行ってる塾紹介してもらったからもしよかったら一緒に見学行かないかな……って。」


私が英語苦手だって覚えてくれてたんだ。
そんな些細なことでさえ嬉しくて、どきどきしてしまう。


「行く。」


正直、塾に通うかどうかなんてこの時の私にはどうでもよかった。
ただ、伊澄くんと一緒にいられる時間がほしかった。
確かな、約束がほしかった。
そんな下心満載の気持ちで、行くと口にしていた。


「じゃあ、土曜の11時に駅で。」


「うん。土曜の11時に駅。」


忘れてしまわないように、伊澄くんの言葉を復唱した。


約束、初めての約束。
ふたりで、初めて出かける。
これって、もしかしてデートなのかな……。
ただの塾の見学だけど。
デートって、言ってもいいのかな。


< 90 / 207 >

この作品をシェア

pagetop