君のことは一ミリたりとも【完】
7 始まったばかりの二人




昔から河田さんは融通が利かなくて、友達だって少なかったし、優麻ちゃん以外の人に懐いているところを見たことがなかった。
対して俺は人に合わせるのは得意だったし、学年でも友達は多い方でコミュニケーションという面で苦労したことは一度もなかった。

だから自分と正反対の彼女のことを俺は理解出来なかったし、理解しようとも思わなかった。
自分の思い通りにならない人は嫌いだった。そんな子供みたいな理由で。

一方的にバリアを貼っていたのは俺の方だった。










「加奈ちゃん、本当にありがとう! めちゃくちゃ感謝してます!」


会社に着くなり勤務開始までスマホを眺めていた彼女に駆け寄ってそう頭を下げる。
直ぐに何のことか察したのか、加奈ちゃんはスマホを机の上に置いて俺に向かって足を組んだ。


「彼女さんから聞いたんですか?」

「河田さんがお礼言っといてって言われたから。本当加奈ちゃんがいなかったら終わってたと思う」


昨日の昼下がり、普段通り加奈ちゃんと外でランチを取った後、会社に戻ろうとしている時に偶然河田さんと居合わせた。
その場のノリで腕を組んでいた俺たちを見て河田さんは酷くショックを受けた様子でその場を去ろうとする。俺も慌てて追いかけたが彼女の同僚と思われる男に遮られて、その誤解を解くことは出来なかった。

折角河田さんの警戒が取れてきたと思っていたのにまさかこんなミスをするなんて。誤解をされてしまったことのショックで俺の方も立ち直れず、なかなか彼女に連絡することができなかった。
完全に振られたな。ていうか俺って女に振られたぐらいでこんなに落ち込むのか。知らなかった。

河田さんのことを気にしてから、今までと違う自分の姿ばかりで俺自身が驚いている。
女を振り向かせるためにこんなに必死になったこともないし、本気で嫌われたんじゃないかと落ち込んでもいる。

しかしその晩、会社を出て家に帰ろうとしている時に河田さんから連絡があった。
彼女は自分のところに加奈という女性が訪ねてきて、そしてお昼の誤解を解かれたと話していた。




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