君のことは一ミリたりとも【完】




そう俺のことを気にしながら話す加奈ちゃんのことがいじらしく思わず吹き出して笑ってしまった。
本当、どうしてこんな可愛くて優しい子を振ってしまったんだろうか。自分でもそう思ってしまう。

それでも、俺は簡単には手に入らない河田さんの方が欲しかったと言えるんだろう。


「(けど、河田さんはまだあの生瀬が好きなんだろうけど……)」


自分の席に着席しながらまだあそこの二人は繋がっているのだろうかと疑問が浮かんだ。
見た感じだと河田さんはまだ生瀬を吹っ切れてはいない。きっと俺と付き合っているのだって頭の片隅にある生瀬への気持ちを忘れたい一心からだと思う。

別に俺はそれでもいいし、生瀬への気持ちを忘れるために利用されるなら万々歳ではあるけれど、実際に生瀬は彼女のことをもう恋愛対象には考えていないのだろうか。
今までの河田さんを見ている限り、生瀬に関してだけ異常に取り乱したり精神的に弱くなることがある。一度依存してしまったことから手を抜くというは簡単ではない。


「(敵地調査といきますか)」


立ち上げたPCの画面に映っていたのは生瀬が社長を務める会社のホームページだった。











「はぁ、これまた立派なビルにオフィスを構えてらっしゃって」


出版社を出て数分のうちに生瀬の会社には辿り着いた。2年前に建てられたこの全身ガラス張りのオフィスビルはここ周辺のオフィス街の中心的な建物となりつつあった。
きっとこのビルが誕生した2年前に生瀬の会社は移動してきたのだろう。ここ最近の話であれば俺が河田さんと職場が近いのに対して一度も顔を合わせなかった理由にも頷ける。

ロビーに入り、入館証を受付から受け取ると15階にあるオフィスへと向かう。
まだ少数精鋭の会社だが、ここまで立派なオフィスを構えているのであればこれからも社員は増やす続けるつもりなのだろう。



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