君のことは一ミリたりとも【完】



全く何の話か分からん、と呟いた竹村の後ろから勢いよく現れたのは加奈ちゃんだ。


「行ってください! 先輩!」

「加奈ちゃん?」

「彼女のところ、行ってください! 他の人に渡しちゃ駄目ですよ!」

「何で加奈ちゃん、事情知ってる風なの?」


俺は何も話してないけど。すると彼女は「女の勘です!」と堂々と発言する。女の勘怖い。
だけど確かに今のは背中を押された気がする。気付いたら俺は新幹線のチケットを購入していた。


「(きっと一人にしたくないって思っていること自体が……)」


答えなんだと思う。






新幹線を降り、寝泊予定のホテルへと向かう。駅から近いホテルを取ってるので直ぐそこだ。
早速亜紀さんに連絡しようとスマホを取り出すと丁度向こうから電話が掛かってきた。

亜紀さんから連絡が来ること自体珍しいのにこのタイミングとか。
俺は騒ぎ立つ気持ちを抑え、その通話に出た。

通話先で亜紀さんが泣いていた。
嫌な予感が的中した。と同時に、やっぱり来て正解だったと思う。


「何かあったじゃないわよ。ほんと最悪。不倫した過去は消えないし、会社はクビになるだろうし、優麻に知られたら本当にどうすんのよ」


通話先で泣きながらそう訴える亜紀さんに俺は少しだけ嬉しかった。
やっとこうして真正面から気持ちをぶつけてくれるようになった。俺と、対等でいてくれるようになった。

やっと、高校の時のことを許された気がする。


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